解説の目的
建築物のシロアリ及び木材腐朽菌による被害の調査、予防または駆除を適正かつ安全に行い、消費者に信頼され、公共の福祉に寄与することを目的としています。
既存建築物しろあり防除処理標準仕様書
概要
- 適用範囲:
- この仕様書は、さまざまな種類の建築物(木造、鉄骨造、コンクリート造、ブロック造など)の劣化を軽減し、耐久性を高める目的で作成されています。
- 仕様書は、公益社団法人日本しろあり対策協会に登録された専門家によって、安全管理基準に基づき、認定された薬剤や工法を使用して行う、既存建築物のしろあり予防や駆除のための処理を規定しています。
- 対象とするシロアリの種類:
- 予防処理の対象となるのは、ヤマトシロアリとイエシロアリの2種類です。
- 薬剤・工法:
- 使用する薬剤や工法は、協会で認定されたものを用います。
- 処理の方法:
- 防除処理は、土壌処理と木材処理の2つの方法で行います。
- 特殊な建築材料や構造、またはシロアリ被害が特に顕著な地域では、状況に応じた特別な処理が必要となる場合があります。
- 効果:
- 処理を行った建築物は、シロアリに対して建物全体に効果があり、防腐については処理した木材に効果があります。
- 記録:
- 予防処理を行う者は、処理に関する記録を5年間保存する必要があります。
- 記録には、建築物の情報、処理の詳細(薬剤の情報、処理方法など)が含まれます。
- 特記による予防処理:
- 特記による処理とは、標準仕様書に定められた方法が適さない状況(薬剤の使用環境や建築的制約など)で、施工者や設計者が安全性や有効性を考慮して独自の処理方法を採用することを指します。
- しかし、この場合でも安全管理基準を遵守し、安全性や防蟻効果が不明な方法を無闇に使用してはなりません。
- 裁判例においても、防蟻処理の瑕疵により防除施工者に責任があるとされることがありますので、特別な注意が必要です。
地域別の処理の適用区分
この部分では、建設地(都道府県別)によって異なるシロアリ予防処理の方法について説明しています。
1. 土壌処理と木材処理の選定
- 土壌処理と木材処理は、建設地に応じてどの方法を適用するかが決定されます。
- 特定の地域では、特定の処理方法が推奨されています。
2. 建設地別の適用区分
- 沖縄、九州、四国、中国、近畿、中部、関東、北陸、東北の各都府県では、製材のJAS(日本農林規格)保存処理材を使用し、土壌処理を行います。
- 北海道では、土壌処理が必要に応じて行われます。
3. 加圧注入処理と表面処理
- 加圧注入処理と表面処理は組み合わせて使用することができます。
- 加圧注入処理された木材の土台などでは、表面処理が除外されることもあります。
駆除処理の一般的な方法
駆除処理は、建設地の地域にかかわらず、土壌処理と木材処理の両方を行います。
土壌処理の方法
土壌処理は、建物の床下土壌に対して行われ、シロアリが土壌を通って建物に侵入するのを防ぐための処理です。
- 目的と対象:
- 土壌処理の主な目的は、建築物の基礎部分や床下にある土壌に対してシロアリの侵入を防ぐことです。
- これは建物の基礎や床下の土壌が直接の対象となります。
- 処理方法:
- 土壌処理には、薬剤を土壌に散布する方法が含まれます。これには帯状散布法や面状散布法などがあります。
- 散布される薬剤は、シロアリが土壌を通って建物に侵入するのを防ぐために使用されます。
- 効果:
- 土壌処理は、床下の土壌にバリアを作り、シロアリの侵入を防ぐ効果があります。
- 土壌注入法:
- コンクリートなどの下の土壌を処理する方法です。
- 穿孔して注入器を使い、土壌処理剤を注入します。
- 注入量は穿孔間隔(標準は1m)と土壌の質により異なりますが、通常は1孔当たり3~5Lを標準とします。
- 地下水が近い場所や井戸の周辺ではこの方法を使用しません。
- 既存建築物の処理法:
- 建築物の構造や立地条件に応じて、適切な処理法を選択します。
- 蟻道や被害部分に近い箇所は特に入念に処理します。
具体的な土壌処理の方法
この章では、シロアリが土壌を通って建物に侵入するのを防ぐための、具体的な処理の方法を解説します。
- 建築物外周部基礎の処理:
- 建築物の外周部基礎にある蟻道がある場合、薬剤が外に流出しない方法で局所的に処理します。
- 露地の床下処理:
- 床下が露地の場合、基礎や束石、架台類、配管類の立ち上がり部分の周囲を帯状に散布します。
- コンクリート床下処理:
- 床下がコンクリートの場合も、同様に基礎などの立ち上がり部分に帯状散布を行います。コンクリートの打ち継ぎ部分や割れは特に注意深く処理します。
- 防湿シートの処理:
- 防湿シートが敷かれている場合、シートを一時的にめくり、その下の土壌に帯状散布を行います。
- コンクリート床の処理:
- コンクリート床の場合、コンクリート表面に適切な薬剤を選んで面状散布します。
- 基礎コンクリート表面の処理:
- 基礎コンクリート表面にも薬剤を塗布または散布します。
木材処理の方法
木材処理は、建築物の木製部分、特に外壁や床組、構造用木材などに行われます。
建築物に使用される木材をシロアリの被害や腐朽から保護することを目的とした処理です。
- 目的と対象:
- 木材処理の主な目的は、建築物に使用される木材をシロアリの被害や腐朽から保護することです。
- 対象は建築物の木製部分、特に外壁や床組、構造用木材などです。
- 処理方法:
- 木材処理には、木材の表面に薬剤を塗布する方法が含まれます。これには吹付処理法や塗布処理法などがあります。
- 処理される薬剤は、木材を腐朽やシロアリの被害から保護します。
- 効果:
- 木材処理は、建築物の木材部分に直接適用され、腐朽やシロアリによる損害を防ぐ効果があります。
- 穿孔注入処理法:
- 木材にドリルで穿孔し、予防駆除剤を注入する方法です。
- 注入量は適量とし、加圧注入や非加圧注入が可能です。
- 穿孔吹付処理法:
- モルタル仕上げの壁体に穿孔し、ノズルを挿入して木材に予防駆除剤を吹付ける方法です。
- 吹付量は1m2当たり300mLを標準とします。
- 駆除処理:
- 蟻道や被害部分に認定薬剤で入念に処理します。
- 駆除処理後に予防処理が必要な場合は、上記方法を併用します。
具体的な木材処理の方法
この章では、建築物に使用される木材をシロアリの被害や腐朽から保護するための、具体的な方法を解説します。
- 外壁の処理:
- モルタル壁などの大壁造の外壁では、壁に穿孔して基礎天端から1m以内の木材に穿孔吹付処理を行います。断熱材がある場合は、薬剤や穿孔場所に注意が必要です。
- 真壁造の外壁処理:
- 真壁造の外壁では、基礎天端から1m以内の露出している木材に吹付や塗布処理を行います。必要に応じて穿孔注入処理も行います。
- 床組の処理:
- 1階部分の床組では、大引、根太、床束などに吹付や塗布処理を行います。また、土台や柱の下部にも必要に応じて処理を行います。
安全対策及び注意事項
- 施工現場の安全確保:
- 施工中は、関係者以外の立入を禁止し、適切な表示で注意を喚起します。
- 薬剤の適切な管理:
- 薬剤の流出や飛散を防ぎ、特に環境汚染が懸念される場合は土壌処理を控えます。
- 環境への配慮:
- 薬剤が下水や井戸、地下水に流れ込まないようにし、近隣への汚染を防ぎます。
- ペットや植物の保護:
- 薬剤の影響を受ける恐れがあるペットや観葉植物は、安全な場所に移動します。
- 居住者への情報提供:
- 施工内容や使用薬剤について居住者に事前に十分な説明を行います。
- 床下収納庫の保護:
- 床下収納庫がある場合、薬液がかからないように処理します。
- 木材の保護:
- 木材に穿孔する際は、木材の強度を損なわないように注意します。
- 建築材料の保護:
- 断熱材や防湿気密シートなどの建築材料を損傷しないように、薬剤の散布方法に注意します。
- 穿孔後の処理:
- 穿孔した後は、見た目や建物の保存上必要な箇所に合った栓をします。
その他
- 再処理のスケジュール:
- 防除処理を行った建築物は、5年を目途に再処理を行います。
- コンクリート床下の処理:
- 既にコンクリートが打設されている床下土壌には、選定した薬剤を土壌処理と同様に散布します。水損を防ぐために薬剤の濃度を調整することができます。
- 仕様書外の事項の取り扱い:
- 仕様書に記載されていない事項でも、協会が承認したものは、仕様書に準じて実施することができます。
クロモリ ユウキ
air Inc.代表。マーケティング会社を経営しています。地方企業を支援しています。市場調査のガイドラインを監修。
シロアリ博士
シロアリ防除施工士。シロアリ会社に勤務しながらシロアリの生態の情報発信をしています。シロアリに関する情報を監修。
岳下斉弘
株式会社サクセス代表。建築設計会社を経営する設計士。リノベーション協議会会員。住宅に関する情報の監修。